SF作家 眉村卓先生死去のニュース
ありがとうございました
SF作家の眉村卓先生が亡くなってしまった
昨日、秋深まるセントラルパークを歩いていて
なぜか急に理由のない悲しさに包まれて、普段なら楽々歩ける距離を
タクシーに乗ってなんとか家まで帰り、そのまま寝てしまった。
時差ボケ
なんだけど、時差を計算するなら、ちょうどその時間に
先生は逝ってしまわれたことになる。
もう30年以上も前
FM大阪に「男のポケット」という番組があった
その中で、毎回与えられたテーマのお話をして、最後に即興で
先生はテーマに沿ったショートストーリーを書き、自ら朗読するという番組だった
当時私は、その番組の中で「聞き手」としてご一緒させていただいた。
まだ20代の頃。
毎回、毎回 目の前でショートストーリーが生まれてくる。
幼いお嬢さんが、お家で真似をしてらしたという
原稿用紙を丸めて捨てて、、、みたいなことも
少しはあったけれど
しばし 原稿用紙に向かった後
さっと立ち上がって
おそらく洗面所に行かれ
戻ってきたら、万年筆から特徴のある文字がするする出てきて
あっという間に書きあがる!
そんな印象だった
毎回、毎回、すごいなーって
男のポケットの収録後、時々飲みにつれていってくださった
必ず奥さまが合流して
良くお二人お気に入りの小さなバーへ
そこにいるピアニストに、クマンバチの飛行をリクエストなさってた
先生が、ボトルのラベルに、独特キャラをマジックでお描きになるのも
楽しくて、魔法のようだった
高校の同級生というお二人は
本当に仲が良くて、お互いにリスペクトがあって
「世の中にこんなご夫婦もいるんだなあ」といつも憧れで
番組で書かれたショートストーリーは、後に本にまとめられ
最終回では、扉に新しいプレートをつけて、そこから
次の世界へ飛び出して行った人として「桜子」も登場させてくださった。
ニューヨークから
遅ればせながら結婚をし、子供が生まれたことをお知らせしたときには
「どうぞ、お子さんの前で旦那さまの悪口だけは言わないでくださいね」と
お返事くださり、これでもちゃんとその教えを守っている。つもり。
奥様がガンで亡くなられたことをお知らせくださった時
のちに「妻に捧げた1778話」としてまとめられ話題を呼び映画にもなった
毎日ストーリーを一話書いたんだ ということも教えてくださいました。
毎日だとやはり流石の先生も大変で、そんな時奥様に
「これは、ただのエッセイじゃないか!」って叱られたって。
困ったような、嬉しいような、誇りのような。
最後の最後まで支え合ったお二人。
先生
昨日、秋深まるセントラルパークを歩いてて夫に話してたんですよ
男のポケットのテーマがある時「季節」で
先生が「好きな季節は何?」と聞かれたから
「ロマンチックな秋!」と答えたら
「桜子さんは若いからね。僕くらいになるとね、
命が終わりに向かう秋はちょっときつくなってくる。
今は、命が芽吹く、あのエネルギーの春がいいな」
とおっしゃったこと。
あの頃の先生のお年を私も越えて
深まる秋に重ねるちょっとした痛みがわかるようにもなりました。
残された身はさみしいけれど
今頃、ショートカットがよく似合う美人で聡明な奥様に合流なさって
お二人で一杯かわしながら
クマンバチの飛行を聞いておられると思うと
どこか少しだけ暖かい気持ちになります。
若いだけが取り柄だった私にも
あんなにご夫婦で優しく接してくださり
本当にありがとうございました。
ご冥福をお祈りいたします。
さくらこ